2008ハロウィーン
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ひとりでどれほど待っただろう
魔物は暗闇の中、ほつりと呟いた。
永遠のはずの死の眠りについた身体は霊廟の数多の棺のひとつに納められ
時に訪れる人々の手向けの花は絶えることもない。
そこはこの国の英雄と呼ばれる者の血族の霊廟だったので
たとえその直系の者が絶えたとしても変わらなかった。
昼は静かな墓参者の足音が響く
けれど夜ともなればそこは死者たちの国だ。
魔物はもはや神も十字架も恐れはしなかったから、霊廟に入り込むことも棺の蓋を開けることも苦にはならない。
いくつもいくつもそこにある棺の内は魔物の手にかけられ無念に絶命した者も多いというのに、邪魔は入らなかった。
目指す棺はただひとつ
真新しい、今だ献花の絶えぬ華やかなもの
争うだけの歴史に終止符を打った本当の英雄
もう追われるばかりの身ではなくなったというのに
その小柄な英雄が命の火を消したその日まで
けして魔物は姿を現すことはなかった。
相容れない存在だったが刃をまみえる瞬間だけはまるで血を分けた者のように近しく思えた。
争いを止めて剣を捨てたその相手の前には、だから出て行くことなど考えられなかった。
もう一度会いたいと、望みは冷たく眠る死者との逢瀬として叶えられる。
物言わぬ身体は青く冷たく、これが望みなのかと訪れるたびに後悔するのだが
しかしいつか魔物は気づいた。
冷え冷えとした暗い霊廟とはいえ、その身体が朽ちてゆく様子はなく季節は移る。
それが神という絶対者の意思なのか、己の未練なのか
どちらにしてもきっと返してくれるに違いない
どれだけ長い時間が経とうともきっと。
それから気が遠くなる位長い時が過ぎて、ひとの歴史も流れてゆく
権力の在り処も移り変わり、英雄の霊廟も忘れられ朽ちるにまかせられいつしか荒れた人のよりつかぬ暗い闇に閉ざされる。
それでも魔物はたったひとつの棺を守っていた。
朽ちることのない身体は死の眠りについたあの日のままだから
その眸が開かれる瞬間だけを待ち望み
魔物はその傍らから離れなかった。
暗い闇に閉ざされた、死に取り巻かれた廃墟のなかで。
by.blue
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