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2008ハロウィーン
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 「トリック・オア・トリート!トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
 通りから聞こえてきた声に,ぼくはあわてて穴の開いたシーツをかぶった。パパもママもいないぼくをさそってくれる子なんかいない。いつだって仲間はずれだ。
 急がなくっちゃ。ほかの子にお菓子をぜんぶ取られちゃう。二階からかけ下りると,「ジェフ?遅くならないようにね」とブレンダおばさんの声がダイニングから聞こえてきた。「わかってる」と返事をして,ぼくは勢いよくドアを開けた。
 やっぱり出おくれちゃった。アリソンさんちのマフィンも,ブラウンさんちのミンスパイも,もうみんなに取られたあとだった。あーあ,今年こそ食べたかったのになぁ。代わりにもらったヌガーを食べながら歩いていると,バス停のベンチにポツンと座ってる子がいた。
 黄色いカボチャ頭の子だったんだ。この子も仲間はずれにされたのかなと思って,ぼくは思い切って「ねえ」と声をかけてみた。「君,一人?」ってきくとその子は重そうな頭でこくんとうなづいた。
「早くしないとお菓子がなくなっちゃうよ」
「でも…ボク…どうしたらいいのか,分かんないんだ」
どうしたらいいか分からないなんて,変な子だなって思ったけど,なんだかとってもさみしそうだったから,ぼくは言ったんだ。
「ぼくがいっしょに行ってあげる」
「でも…」
「だいじょうぶ。かんたんだよ。トリック・オア・トリート!言ってごらん」
「…トリック…オア…トリート…」
「そう!さあ,行こう!まだ間に合うかもしれない」
ぼくがその子の手を取ると,その子は「……うん」と小さな声でうなづいて立ち上がった。
「ぼくはジェフ。君は?」
「ボクは…ボクはジャック。みんなにそう呼ばれてる」
「じゃあ,ジャック,行くよ!」
ぼくは仲間を見つけた気がして,うれしくってジャックの手を引いてかけ出した。
 ぼくたちは完全に出おくれちゃってたから,どこに行っても残りものしかもらえなかった。でもちっちゃなキャンディーやキスチョコやしけったポップコーンばっかりでも,ジャックはちっとも気にしなかった。
「ねえ。ねえ,ジェフ。ボクこんなにもらえたよ」
ジャックは両手いっぱいのお菓子を見てとてもうれしそうに笑った。
「ボク…もっともらえるかなぁ」
なんだかぼくも楽しくなって,つられて笑った。
「じゃあ,このふくろをお菓子でいっぱいにしようよ」
ジェームズさんちでもらったドラッグストアの紙ぶくろを広げると,ジャックはその中にお菓子をざらざらと入れて「うん!」ってうなづいた。
 それからぼくたちは,夜のまちをかけ回った。お菓子をくれない家では窓からのぞき込んで大人たちをびっくりさせたり,ふだんは子どもにきびしいアマラおばあさんに焼きたてのアップルパイをもらっておどろいたり,スミスさんちの犬に追っかけられたりして大いそがしだった。ぼくたちが悲鳴を上げたり,笑い転げたりしているうちに,ふくろの中はお菓子でいっぱいになった。
 ジャックと出会ったバス停までもどって,ぼくたちはベンチにこしかけた。ぼくとジャックはふくろに手を入れてお菓子をつまみながら話をした。
「ハロウィンって死んだ人がもどってくるんだよね」
「…そうだね」
「パパやママに会えないかな」
「ジェフ…それは,できないと思うよ」
「なんで?」
「きっと,ジェフのパパとママは,天国にいるから…」
ジャックは少しまじめな声で言った。ぼくは少しさみしくなって,チュロスにかじりついた。
「ボク,ジェフといっしょで,楽しかった」
ジャックがしずかな声でつぶやいた。
「楽しかったなぁ…ボク,忘れたくないなあぁ…」
急にジャックが泣き出したので,ぼくはびっくりした。
「忘れたくないんだ。でも,ボクの頭は,ホントに空っぽだから,すぐ忘れちゃうんだ。忘れたくないよぉ…」
ボクはどうしていいか分からなくなったんだけど,お菓子のふくろをジャックにわたして言った。
「ぼくは忘れないよ。せっかく友達になったんだもの」
「お菓子…ボクに,くれるの?」
「うん。ぜんぶあげる」
ジャックはしばらくだまっていたけど,カボチャ頭の耳の所に指を入れてほじくると,ぼくに一粒のカボチャの種をくれた。
「これ,あげる。お菓子のおれいに」
そう言うとジャックの体はふわりと宙にうかんだ。
「ボク,もう行かなきゃ。ありがとう…ジェフ」
ジャックの体はどんどん小さくなっていった。ぼくはジャックが見えなくなる前に大声で言ったんだ。
「忘れないよ。大人になっても,おじいちゃんになっても。友達だもん。ぼくたち約束したんだ。ぜったいに」

 帰りが遅いってしかられたけど,ブレンダおばさんはぼくをぎゅって抱きしめてくれた。心配させてごめんねってぼくは思った。その日のベッドはあったかだった。
 来年になったらカボチャの種をまこう。大きなカボチャができたら,それでランタンを作ろう。また会えるかどうかは分からないけど,ぼくたちの約束だから。



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written by 侘助 sama. thanks a lot!!
&thanks! やし chan. (イラストレーション)

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無題
飛び入り参加にもかかわらず,快く掲載下さいましてありがとうございました。

>やしさん
素敵なイラストをありがとう!
侘助 2008/10/31(Fri)07:11:26 編集
ご参加ありがとうございました
この度こんな場末のイベントにご参加ありがとうございます。
冬の夜をほかりと温かくするような読後感の素敵な作品ですねv
blue 2008/11/03(Mon)01:11:09 編集
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