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「トリック・オア・トリート!トリック・オア・トリート!お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
通りから聞こえてきた声に,ぼくはあわてて穴の開いたシーツをかぶった。パパもママもいないぼくをさそってくれる子なんかいない。いつだって仲間はずれだ。
急がなくっちゃ。ほかの子にお菓子をぜんぶ取られちゃう。二階からかけ下りると,「ジェフ?遅くならないようにね」とブレンダおばさんの声がダイニングから聞こえてきた。「わかってる」と返事をして,ぼくは勢いよくドアを開けた。
やっぱり出おくれちゃった。アリソンさんちのマフィンも,ブラウンさんちのミンスパイも,もうみんなに取られたあとだった。あーあ,今年こそ食べたかったのになぁ。代わりにもらったヌガーを食べながら歩いていると,バス停のベンチにポツンと座ってる子がいた。
黄色いカボチャ頭の子だったんだ。この子も仲間はずれにされたのかなと思って,ぼくは思い切って「ねえ」と声をかけてみた。「君,一人?」ってきくとその子は重そうな頭でこくんとうなづいた。
「早くしないとお菓子がなくなっちゃうよ」
「でも…ボク…どうしたらいいのか,分かんないんだ」
どうしたらいいか分からないなんて,変な子だなって思ったけど,なんだかとってもさみしそうだったから,ぼくは言ったんだ。
「ぼくがいっしょに行ってあげる」
「でも…」
「だいじょうぶ。かんたんだよ。トリック・オア・トリート!言ってごらん」
「…トリック…オア…トリート…」
「そう!さあ,行こう!まだ間に合うかもしれない」
ぼくがその子の手を取ると,その子は「……うん」と小さな声でうなづいて立ち上がった。
「ぼくはジェフ。君は?」
「ボクは…ボクはジャック。みんなにそう呼ばれてる」
「じゃあ,ジャック,行くよ!」
ぼくは仲間を見つけた気がして,うれしくってジャックの手を引いてかけ出した。
ぼくたちは完全に出おくれちゃってたから,どこに行っても残りものしかもらえなかった。でもちっちゃなキャンディーやキスチョコやしけったポップコーンばっかりでも,ジャックはちっとも気にしなかった。
「ねえ。ねえ,ジェフ。ボクこんなにもらえたよ」
ジャックは両手いっぱいのお菓子を見てとてもうれしそうに笑った。
「ボク…もっともらえるかなぁ」
なんだかぼくも楽しくなって,つられて笑った。
「じゃあ,このふくろをお菓子でいっぱいにしようよ」
ジェームズさんちでもらったドラッグストアの紙ぶくろを広げると,ジャックはその中にお菓子をざらざらと入れて「うん!」ってうなづいた。
それからぼくたちは,夜のまちをかけ回った。お菓子をくれない家では窓からのぞき込んで大人たちをびっくりさせたり,ふだんは子どもにきびしいアマラおばあさんに焼きたてのアップルパイをもらっておどろいたり,スミスさんちの犬に追っかけられたりして大いそがしだった。ぼくたちが悲鳴を上げたり,笑い転げたりしているうちに,ふくろの中はお菓子でいっぱいになった。
ジャックと出会ったバス停までもどって,ぼくたちはベンチにこしかけた。ぼくとジャックはふくろに手を入れてお菓子をつまみながら話をした。
「ハロウィンって死んだ人がもどってくるんだよね」
「…そうだね」
「パパやママに会えないかな」
「ジェフ…それは,できないと思うよ」
「なんで?」
「きっと,ジェフのパパとママは,天国にいるから…」
ジャックは少しまじめな声で言った。ぼくは少しさみしくなって,チュロスにかじりついた。
「ボク,ジェフといっしょで,楽しかった」
ジャックがしずかな声でつぶやいた。
「楽しかったなぁ…ボク,忘れたくないなあぁ…」
急にジャックが泣き出したので,ぼくはびっくりした。
「忘れたくないんだ。でも,ボクの頭は,ホントに空っぽだから,すぐ忘れちゃうんだ。忘れたくないよぉ…」
ボクはどうしていいか分からなくなったんだけど,お菓子のふくろをジャックにわたして言った。
「ぼくは忘れないよ。せっかく友達になったんだもの」
「お菓子…ボクに,くれるの?」
「うん。ぜんぶあげる」
ジャックはしばらくだまっていたけど,カボチャ頭の耳の所に指を入れてほじくると,ぼくに一粒のカボチャの種をくれた。
「これ,あげる。お菓子のおれいに」
そう言うとジャックの体はふわりと宙にうかんだ。
「ボク,もう行かなきゃ。ありがとう…ジェフ」
ジャックの体はどんどん小さくなっていった。ぼくはジャックが見えなくなる前に大声で言ったんだ。
「忘れないよ。大人になっても,おじいちゃんになっても。友達だもん。ぼくたち約束したんだ。ぜったいに」
帰りが遅いってしかられたけど,ブレンダおばさんはぼくをぎゅって抱きしめてくれた。心配させてごめんねってぼくは思った。その日のベッドはあったかだった。
来年になったらカボチャの種をまこう。大きなカボチャができたら,それでランタンを作ろう。また会えるかどうかは分からないけど,ぼくたちの約束だから。
&thanks! やし chan. (イラストレーション)
まだ四つか五つか、幼稚園には金髪の外国人の先生がいたことを憶えている。
今にして思えばお友達にも色々な目の色、肌の色の子が大勢いた。
だから夏が終わり涼しくなってくるとハロウィーンの話題でもちきり。
当日は勿論お菓子がいっぱい貰えて夜いつもよりほんの少し夜更かしが許されるから楽しみだったし、手作りの仮装パーティーの準備がまた楽しみでしかたなかった。
毎日、絵本や雑誌それから先生の持ち込む写真であれこれ悩む。
子供といってもそれなりに自我や趣味や、そんなものをみんな強く持っていたから簡単になんて決められない。
けれどその時僕が一番興味を持っていたのはアメリカの新聞で有名な漫画に載っていたかぼちゃの王さまの事。
広い広いかぼちゃ畑。
暗い夜。
大きなかぼちゃに寄りかかってかぼちゃの王さまを待つ男の子がなぜだかひどくうらやましかった。
夜のかぼちゃ畑も大きなかぼちゃも僕はみたことがなかった。
ヒーローに変身とかお菓子をたくさん貰うとかよりもどうしてもそこに行ってみたくて母を困らせて泣いた。
どうしてそんなに惹かれたのだろう、その時の気持ちはとうに忘れてしまったけれどどんなに真剣だったかは憶えてる。
薄暗い夕暮れにこっそり探検に行こうと、家を抜け出す計画を幼稚園の友達にこっそり持ちかけたのだけれど皆それぞれが自分のハロウィーン計画に夢中でちっとも本気になんてしてくれない。
おもしろいとも思ってもらえやしなかったんだろう。
だから僕はひとりでも家を抜け出そうなんて、意地になってその日ほんとうにこっそり家を出た。
かぼちゃ畑がどこにあるのかなんて基本的なことすら知らなかったくせに闇雲に飛び出した足が向かったのは、よく遊びに行く公園の方向。
ゆっくりと暗くなりはじめる空と誰もいない公園に帰ろうかと怯んだその時、土を踏みしめる軽い足音に驚いて振りむけば自分と同じ位の男の子が立っていた。
知らない子だ、と思ったけれどどこかで会ったことがあるかもしれないなんとなく見覚えのある顔。
ちょっとくせのある髪と大きな目は黒かったからあやしいカタコトの英語を使う必要はないとほっとして。
その子となにか話したり遊んだりして、でも真っ暗になる前には家に帰った…
…らしい。
実は僕はちっともその辺りのことを覚えていなくて、何度も思い出そうとしても出てくるのはそのあと恐ろしく怒られて薄暗い納戸に閉じ込められて泣いたことくらい。
ひとりぼっちの狭い闇がこわくてこわくて、そのショックでみんな忘れてしまったのかも。
こんなことを急に思い出してみたのも街にオレンジ色があふれて季節が変わったんだなあと思うほど空気が冷たくなったからで、他意はなかったのに。
あの子は誰だったんだろうなんて呟いたら、目の前の相手はひどく不機嫌な顔をしてじっと僕を覗き込む。
真剣に憶えてないの?って聞き返されて。
あいまいに頷いたら、がっくりと肩を落とした。
印象薄い方じゃないと思ってた、なんてぶつぶつ呟いてるからまさかと思ったけれど、あれは?
クラスが違ってたけど、同じ幼稚園だったじゃん
そう言って笑う顔がいつも以上に意地悪に見えたのは気のせいかもしれないけれど、それでも信じられない。
あんなに偶然に出会うなんて、もしかして僕達が友達になることは運命だったのかも。
そう言ったら、彼は爆笑して
あれはおまえが誰彼となく今日こそかぼちゃ畑に行くって決意表明してたから
だから家の傍から見張ってたんだ、なんて言う。
ばかだし、迷うにちがいないと思って。
そんなひどい言葉まで投げつけて。
でもあの日、年もほとんど違わない君が僕の為に家を抜け出してくれたことや
今こうして友達になれたこと
それは神様がくれた運命だって、言い切ってしまえるほどの大きなことだと僕はこっそりと胸の中で思う。
いまは意地悪な笑顔で皮肉に笑う君がやさしくて心配性なんだってちゃんと知っているし。
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