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裏漉しした南瓜に蜂蜜を垂らし、木べらで気が済むまで練ってやった。
人差し指に取り舐めてみる。
思ったよりも甘さはなく、これなら充分、奴の味覚に応えるだろう。
アカシアの蜂蜜はあっさりとして、どんな人の舌にもクセを残さない。
南瓜は甘みの少ないものを選んだつもりだが、何処をどうやっても甘いのが南瓜というものだ。
こればかりはどうしようもない。
さて、これを食べさせる奴を呼び出すには、果たして功を奏するか。
試してみるのは、実は、初めてのこと。
屋根裏の古い書棚で見つけた皮の表装。
書かれていた文字を訳すのに1年掛かった。
単純に南瓜と蜂蜜を用意すればいいだけのことだと判ったは、漸く全文の8分目を過ぎた辺りで、もうほとほとこの書物との別れを懇願し始めていた頃だ。
懇願? 誰に?
何を欲するのかは自分でも判らない。
ただ、奴を呼び出せば、願い事のひとつくらいは我が身に返ってくるだろうと、儚い期待。
期待、ねえ。
台所の床を綺麗に磨き、目が眩むほどに光るタイルの上に描いた文様を、睨み付けたまま本を開いた。
発音は、多分、正しい。
翻訳を続ける1年の間に、通常の会話なら何とか成る程に身につけた言語だ。
さあ出て来るがいい。
我が僕よ。
果たして現れたのは。
夢も泡と消えたその場所で、ボウルの中から掬った南瓜をぽとりと落とした。
黄色い染みが、文様の上に形作られる。
「まだ甘すぎる」
天井に吊り下げられたランプから、金属的な声がした。
「蜂蜜は、いらない」
でも南瓜だけなら、お前は召還できまいに。
「来る気などない」
笑い声とも、誘いともとれる声音。
「さて、お次は何を食べさせてくれる?」
地獄の釜の蓋が開く日には、甘い、甘いお菓子を強請る悪魔が、僕の台所にやって来る。
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