2008ハロウィーン
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written by まり那 sama.
thanks a lot!!
thanks a lot!!
握りしめた呼び鈴は、土埃がこびりついてざらついた感触があった。
カツンと一度、申し訳程度にそれを鳴らし。
両手で扉を押し開けた。すると。
「わ…!」
痛むような眩しさに、目を細めずにはいられなかった。
いったいいつ、その明かりはついたのだろう。それとも。
真っ暗だと思っていた建物の中は、黄金色をした光に満ち溢れていた。そればかりではない。
人々の笑い声、喋り声、ゆるやかに流れる音楽、グラスを傾ける音。どこからともなく聞こえてくるそんな気配がぐるぐると辺りを旋回し、呆然と立ち尽くす訪問者を冷やかすようにして取り巻いてくるのだ。楽しげに。
目が回る心地がする。
突然の音の洪水とともに、何かが自分の中にどっと流れ込んでくるような感覚があった。
崩れ落ちそうになる身体を何とか支え、周囲に目を凝らす。と、玄関の正面奥に、ゆるい傾斜の階段があることに気がついた。その踊り場に掛けられていた肖像画には、どういう訳か、どくんと大きく心臓が脈を打った。何か目に見えない力に吸い寄せられるようにして、一段、そしてまた一段と階段をのぼる。
一段、そしてまた一段。
徐々に明らかになってくる絵の輪郭。豪奢な額で縁取られた絵には、3人の姿が描かれているようであった。いよいよ踊り場に辿りつくと、はっきりとその顔を確認することができた。それは――。
「!!」
驚きに目を見開いたのと、後ろからポンと肩を叩かれたのは同時だった。
振り返った先にあったもの、それは、あの頃と変わらない、けれどあまりにも変わり果ててしまった両親の笑顔だった。
「おかえりなさい」
と微笑んだその顔が、みるみる腐敗し黒く崩れていく。
そして僕は、今日という日がどういう日であるのかようやく理解した。随分と時間がかかってしまったものだと呆れつつ、けれど仕方がない、といっぽうで苦笑した。自分は初めての体験なのだから。
一年に一度、懐かしい我が家に帰ることを許される日。それをハロウィンと、この地方では呼んだだろうか。
ようやく。ああ…ようやく。
「ただいま、父さん、母さん」
久し振りだね。
二人の胸にとび込んだ刹那、ぱ、と嘘のように部屋の明かりが消えたのを、けれど僕は知るよしもない。遠い昔、仲睦まじかった家族を描いた肖像画が、ぱらぱらと砂になって崩れ落ちたことも。
何故ならばそれは向こう側の話。
僕は今、辿り着いたのだから。
カツンと一度、申し訳程度にそれを鳴らし。
両手で扉を押し開けた。すると。
「わ…!」
痛むような眩しさに、目を細めずにはいられなかった。
いったいいつ、その明かりはついたのだろう。それとも。
真っ暗だと思っていた建物の中は、黄金色をした光に満ち溢れていた。そればかりではない。
人々の笑い声、喋り声、ゆるやかに流れる音楽、グラスを傾ける音。どこからともなく聞こえてくるそんな気配がぐるぐると辺りを旋回し、呆然と立ち尽くす訪問者を冷やかすようにして取り巻いてくるのだ。楽しげに。
目が回る心地がする。
突然の音の洪水とともに、何かが自分の中にどっと流れ込んでくるような感覚があった。
崩れ落ちそうになる身体を何とか支え、周囲に目を凝らす。と、玄関の正面奥に、ゆるい傾斜の階段があることに気がついた。その踊り場に掛けられていた肖像画には、どういう訳か、どくんと大きく心臓が脈を打った。何か目に見えない力に吸い寄せられるようにして、一段、そしてまた一段と階段をのぼる。
一段、そしてまた一段。
徐々に明らかになってくる絵の輪郭。豪奢な額で縁取られた絵には、3人の姿が描かれているようであった。いよいよ踊り場に辿りつくと、はっきりとその顔を確認することができた。それは――。
「!!」
驚きに目を見開いたのと、後ろからポンと肩を叩かれたのは同時だった。
振り返った先にあったもの、それは、あの頃と変わらない、けれどあまりにも変わり果ててしまった両親の笑顔だった。
「おかえりなさい」
と微笑んだその顔が、みるみる腐敗し黒く崩れていく。
そして僕は、今日という日がどういう日であるのかようやく理解した。随分と時間がかかってしまったものだと呆れつつ、けれど仕方がない、といっぽうで苦笑した。自分は初めての体験なのだから。
一年に一度、懐かしい我が家に帰ることを許される日。それをハロウィンと、この地方では呼んだだろうか。
ようやく。ああ…ようやく。
「ただいま、父さん、母さん」
久し振りだね。
二人の胸にとび込んだ刹那、ぱ、と嘘のように部屋の明かりが消えたのを、けれど僕は知るよしもない。遠い昔、仲睦まじかった家族を描いた肖像画が、ぱらぱらと砂になって崩れ落ちたことも。
何故ならばそれは向こう側の話。
僕は今、辿り着いたのだから。
END
written by まり那 sama.
thanks a lot!!
thanks a lot!!
門をくぐるとその向こうには、長く石畳が続いていた。
歩を進めればカツカツと、自分の足音が追いかけてくる。
遠く近く、水の落ちるような音がするのは、庭に噴水があるためだった。たいそう美しい、女神らしき姿をした像が、壺のようなものから一心に池に向かって水を注いでいる。きらきらと飛沫が月明かりを宿すのを、横目で見送りながら先に進んだ。
暗闇でも足を取られなかったのは灯りのおかげだった。
石畳に沿って、左右に、足元を照らすランプのようなものがあり、それがまるで客をエスコートするかの如く、ぽ、ぽ、と順番に灯っていくのだ。振り返ればたいそう綺麗な光の道が、そこには出来上がっていたことだろう。
ぽ、ぽ、と灯るオレンジの光を追いかければ。
カツカツと靴の音が静寂に響き。そのリズムは、雲の流れさえも支配しているかのようであった。そして、いつしか「其処に」至る。
導かれるままに辿り着いたその先にあったもの。それは、
「すご…」
大きな屋敷だった。
見上げても、見上げ切れないほどの大きさにまず驚き、これほどまでの屋敷に人の気配がまるでないことにまた驚いた。そして。
そういえばそうだ。
と思い出し、改めてぶるりと背中を震わせた。思い返せばそうなのだった。ここまで歩いてきた森の何処にも、生き物の気配はいっさい感じることができなかったのだ。鳥が枝を揺らす音も、獣が草を散らす音も、遠吠えも、虫の音さえも其処にはいっさいなかった。
底知れぬ闇と、刺すような月明かり。それだけ。
今、目の前に圧倒的な存在感でそびえたつ屋敷も、ただの黒いシルエットに過ぎなかった。そこかしこにある大きな窓ガラスは、月の光をうっすらと反射するのみで、中から漏れる部屋の明かりを映し出してはいなかった。
歩を進めればカツカツと、自分の足音が追いかけてくる。
遠く近く、水の落ちるような音がするのは、庭に噴水があるためだった。たいそう美しい、女神らしき姿をした像が、壺のようなものから一心に池に向かって水を注いでいる。きらきらと飛沫が月明かりを宿すのを、横目で見送りながら先に進んだ。
暗闇でも足を取られなかったのは灯りのおかげだった。
石畳に沿って、左右に、足元を照らすランプのようなものがあり、それがまるで客をエスコートするかの如く、ぽ、ぽ、と順番に灯っていくのだ。振り返ればたいそう綺麗な光の道が、そこには出来上がっていたことだろう。
ぽ、ぽ、と灯るオレンジの光を追いかければ。
カツカツと靴の音が静寂に響き。そのリズムは、雲の流れさえも支配しているかのようであった。そして、いつしか「其処に」至る。
導かれるままに辿り着いたその先にあったもの。それは、
「すご…」
大きな屋敷だった。
見上げても、見上げ切れないほどの大きさにまず驚き、これほどまでの屋敷に人の気配がまるでないことにまた驚いた。そして。
そういえばそうだ。
と思い出し、改めてぶるりと背中を震わせた。思い返せばそうなのだった。ここまで歩いてきた森の何処にも、生き物の気配はいっさい感じることができなかったのだ。鳥が枝を揺らす音も、獣が草を散らす音も、遠吠えも、虫の音さえも其処にはいっさいなかった。
底知れぬ闇と、刺すような月明かり。それだけ。
今、目の前に圧倒的な存在感でそびえたつ屋敷も、ただの黒いシルエットに過ぎなかった。そこかしこにある大きな窓ガラスは、月の光をうっすらと反射するのみで、中から漏れる部屋の明かりを映し出してはいなかった。
written by まり那 sama.
thanks a lot!!
thanks a lot!!
そこに灯りはなかったはずであった。
呆然と立ち尽くしながら、ほんの数秒前を振り返る。
けれど今、暗闇に、ぽう…と浮かび上がって見えるのは、確かにオレンジの光だった。鈍いオレンジ色をした灯りが、ふたつ。
うっそうと茂る木々の中を歩いていたのだった。とっぷりと暮れ落ちた森は闇に包まれていて、遥か上空、矢を放つ月の明かりだけが唯一の色彩だった。そのはずであった。
「なかっただろう、あんなものは」
思えば、不思議なことは他にもあった。
さわさわと風に揺れる梢の音が、何重奏もの深い旋律となって夜を巡っている。その、悪魔の囁きにも似た声を耳にしていると、否が応にも思い出すことができた。元来自分はそうとうな怖がりのはずで。このような時間にこのような場所を歩いている理由がそもそもみつからなかった。
どこまでも暗く、深い森の中に、ぽつりと浮かぶ光の玉、ふたつ。
「いったい何だというんだ」
近づくにつれ、だんだんと大きさを増していったそれは、やがてその正体を現した。
気づけば大きな門の前に立っていた。石でできた門柱の上に備え付けられた、それは灯りだった。右の柱と左のそれに、ひとつづつ。
門の左右に長い塀が続いていたのだとは今気づいた。
と、その時。
驚かないわけはないだろう。
まるでそれ自体に意思があるかのように、ゆったりとした動作で、門はその両手を広げたのだ。いらっしゃい、とでも言うかのように。扉が開いた。
流れゆく灰色の雲が、束の間天の月を隠し。
真の闇が、困惑に引きつった頬の上を通り過ぎていった。
「……」
ごくり、と一度喉を鳴らし。
恐る恐る、といった風情で中に足を踏み入れた。怖がりであるはずの自分のこの勇気が、単なる好奇心とは違うものであるということを、なぜだろう、わかっている気がするのが不思議だった。
This story will continue tomorrow.
呆然と立ち尽くしながら、ほんの数秒前を振り返る。
けれど今、暗闇に、ぽう…と浮かび上がって見えるのは、確かにオレンジの光だった。鈍いオレンジ色をした灯りが、ふたつ。
うっそうと茂る木々の中を歩いていたのだった。とっぷりと暮れ落ちた森は闇に包まれていて、遥か上空、矢を放つ月の明かりだけが唯一の色彩だった。そのはずであった。
「なかっただろう、あんなものは」
思えば、不思議なことは他にもあった。
さわさわと風に揺れる梢の音が、何重奏もの深い旋律となって夜を巡っている。その、悪魔の囁きにも似た声を耳にしていると、否が応にも思い出すことができた。元来自分はそうとうな怖がりのはずで。このような時間にこのような場所を歩いている理由がそもそもみつからなかった。
どこまでも暗く、深い森の中に、ぽつりと浮かぶ光の玉、ふたつ。
「いったい何だというんだ」
近づくにつれ、だんだんと大きさを増していったそれは、やがてその正体を現した。
気づけば大きな門の前に立っていた。石でできた門柱の上に備え付けられた、それは灯りだった。右の柱と左のそれに、ひとつづつ。
門の左右に長い塀が続いていたのだとは今気づいた。
と、その時。
驚かないわけはないだろう。
まるでそれ自体に意思があるかのように、ゆったりとした動作で、門はその両手を広げたのだ。いらっしゃい、とでも言うかのように。扉が開いた。
流れゆく灰色の雲が、束の間天の月を隠し。
真の闇が、困惑に引きつった頬の上を通り過ぎていった。
「……」
ごくり、と一度喉を鳴らし。
恐る恐る、といった風情で中に足を踏み入れた。怖がりであるはずの自分のこの勇気が、単なる好奇心とは違うものであるということを、なぜだろう、わかっている気がするのが不思議だった。
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